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「三越伊勢丹らしさ」を守るクリエイティビティへのこだわり

DTP 検定の出題内容が仕事に繋がっていることを実感

今回お話を伺ったのは、営業本部マーケティング戦略部の中で宣伝広告担当としてエリア・チャネル広告を担当する松岡史育さんと、基幹店のひとつである新宿店を担当する杉井祐喜子さんです。
 お二人ともほぼ同じ時期(2012年)に宣伝部(現在の営業本部マーケティング戦略部)に配属され、2013年にDTP検定Ⅱ種を取得されました。日常業務をこなしながらの検定への挑戦の過程は、どのようなものだったのでしょうか。

「(宣伝部に)配属されて1年の間は先輩の背中を見て仕事をこなすことが精一杯。とても資格試験に取り組む余裕はありませんでした。仕事も一通り覚えてDTP検定に取り組んでみると、これまで用語だけが飛び交っていて意味を理解していなかった言葉や、自分が行っていた作業の重要性や役割、実際に印刷物がどのように仕上がっていくかと言ったことがスッと身に入ってきました。私たちは印刷物全体をディレクションしていくことが仕事なので、全体を理解していないと指示も意見も出せない。このことを身をもって知れる良い経験でしたね』(杉井さん)

「宣伝広告媒体を制作する場合、毎回同じデザイン会社やカメラマン、印刷会社に依頼するとは限りません。そのため、なるべくフラットな言葉でコミュニケーションを取る必要があるのです。制作に携わる全てのスタッフが理解できる言葉、用語、やり方を習得するという意味で、DTP検定は大きく活用できています」(松岡さん)


松岡さんは宣伝広告担当エリア・チャネル広告 担当者として、地域店の広告発信を一身に担う。 「お客様が何を求めているのか、どうすれば最適 な方法で発信できるか」が、担当者として最大 の課題]と語ります。

杉井さんは宣伝広告担当基幹店広告に所属。伊勢丹新宿店というブランドを発信するべく「店舗でのコミュニケーションツール、装飾物」としての役割も意識されるとのこと。「店頭に行けば反応が見られることも楽しい」と話してくれました。


新たな宣伝チャネルであるWeb に向けた準備と対策


 そもそも三越伊勢丹ホールディングスでは、店頭スタッフ向けにさまざまな研修制度や社内試験が用意されているそうです。たとえば、アパレル部門のバイヤーであれば繊維の作り方や生産地から知識を習得し、販売やバイイングに活かされます。
 しかし、内勤部門にあたる宣伝の分野にはそれがありませんでした。印刷物をディレクションするからにはDTPの知識が必要、そうでなければ的確な指示など出せないと考えていたときに知ったのが、「DTP検定」だったそうです。店頭スタッフが経験する社内研修と同じ様に、外部の資格習得に取り組んでみよう、という動機が今日までの流れに繋がっています。
 そして、現在では、Webによる広告宣伝を強化しようと「Web検定」にも取り組まれ、杉井さん、松岡さん共に一回目の試験で合格されました。2つの検定受検は、営業本部マーケティング戦略部スタッフのレベルを標準化するプログラムとして、重要な役割を果たしています。

「Web検定は、普段の仕事でもなかなか触れる機会のない用語が多く、そこは苦労しましたね。でも意外と共通する考え方、プロジェクトの動かし方があると知って、最初に抱いていたコンプレックスは薄くなってきました。実際に作業するわけではないですが、知っておけばディレクションに必ず役立つ、そんな情報がたくさんありました」(松岡さん)

「Webで広告を発信するようになったのは2013年頃と最近の話です。そのため今までのようにノウハウの積み重ねもなく、手探りのスタートでした。だからWeb検定を取得したわけですが、結果としてその知識は打合せやディレクションといった場面場面で役立っていますし、未知の存在ではなくなりました。今まで情報発信といえばまず紙媒体でしたが、Web検定を取得したことで、Webにしかできないコンテンツ発信と紙にあった見せ方を複合的に考えられるようになってきました。正解はまだ分かりませんが、少しずつ広告展開の方法が広がってきています」(松岡さん)



先鋭的でも保守的でも、根底に流れるのは「三越伊勢丹らしさ」を守ること。カタログやチラシといったさまざまな媒体に、その哲学が貫かれています。


「Webならではの見せ方、情報発信力を活かして、 さらに充実したものにしたい」と語るお二人。クリエイターとも連携し、紙やWebのメリットを活かした展開を考えているそうです。

お二人は「DTP検定やWeb検定に向けて勉強することで、専門的な広告宣伝とマーケティング知識を活かす具体的な手法も理解できた」と語ります。


「三越伊勢丹らしさ」を守るクリエイティビティへのこだわり


 さて、三越伊勢丹の広告に対しては、「洗練」、「ユニーク」とさまざまな印象をお持ちになるのではないでしょうか。百貨店の広告は、ターゲットや地域といった要点を踏まえ、商品やキャンペーンが最も魅力的に見える見せ方で伝えることが求められます。営業本部マーケティング戦略部では、部署に入って数ヶ月のスタッフにも仕事を任せ、ディレクター個人の感覚も活かした広告制作が行われています。

「もっとも時間を掛けるのは、コンセプト作りなどの準備の段階です。最終イメージを大きく膨らませて、ゴールを作っていくこと。これが一番難しいのですが、ポイントになる部分です」(松岡さん)

 宣伝物の制作では、コンセプト立案から実際に消費者に届くまでの間に、さまざまなトラブルも起こり得ます。そのため、「最初の発射台が高くないとクリエイティビティが下降線しか描かない。だから最初の目標はできるだけ高く掲げておくのだ」と松岡さんは言います。

「我々の立場としては、最初のスタッフ会議でどれだけ情報をしっかり伝え、スタッフ間で共有できるかが重要です。それぞれ専門分野のプロ集団なので、共通イメージさえクリアになれば大抵のトラブルは抑えられます。このとき、どんな伝え方をすれば良いのか、どんな仕上がりを求めるのかを伝える共通言語としてDTP検定が役立っています」(松岡さん)

「もちろん店舗ごとの個性は意識しますが、私が担当する伊勢丹新宿店の場合は店のコンセプトである“ファッションミュージアム”というコンセプトが伝わるように、負けない物を作ろうとは意識しています。ロゴを外しても伊勢丹新宿店らしさが出るかどうか、これが判断の基準です」(杉井さん)

 DTP検定とWeb検定のいずれも、その取得の動機は「三越伊勢丹らしいと言われる広告をいかに作り上げるか」が根底にあります。営業本部マーケティング戦略部には、伝統的に「発注者でも制作に参加する、もの作りに携わっていく、ただ要望だけを言うような発注者にならないこと」という気風が代々伝わっているそうです。広告制作には多数の人や企業が関わりますが、最終的には人と人とのコミュニケーションがいちばん重要です。そのためには、たとえ日常業務に直接的に現れないような専門知識も取り入れ活かしていくことで、チーム力は格段にアップします。
 杉井さんと松岡さんは「印刷にしてもWebにしても、検定試験に出る内容くらいは理解しておかないとディレクションできない」と語ります。三越伊勢丹ホールディングスのクリエイティビティは、スタッフ一人一人のこうした知識欲の高さによって支えられているのではないでしょうか。

TEXT_西村希美